伎楽(ぎがく)は「呉楽」ともいい、古くはこれを「くれのうたまひ」と読んだ。百済の人、味摩(みまし)が、推古天皇20年[612]に日本に伝えたといわれる楽器伴奏のある無言の仮面劇で、仏教音楽として法会(ほうえ)や行道(ぎょうどう)等に用いられた。のちに雅楽に圧倒されて鎌倉時代には衰え、現在は全く演じられていないが、その遺物は正倉院等に御物として残る。また諸寺の文献にもあって、奈良時代を偲ぶことが出来る。いまに残る民族芸能の獅子舞は、伎楽の名残りともいえる。
劇中唯一の女性は呉女で、面及び背子(からぎぬ)は正倉院御物による。他は次の時代の広隆寺、並に観世音寺資財帳の記事によって考証した。頭には黒紫の頂巾(ちょうきん)をつけ、緋地錦の背子、赤紫の襖と緋紫の襖(あを)をかさね、纐纈の紕裳に白地の下裳をつける。下着には布の汗衫(かざみ)、緑の袷袴、足には布の襪、漆塗りの鼻高沓、帯は赤の組紐、紗の領巾(ひれ)[比礼]を肩に、手には垂緒のついた笠を持っている。
腕には金装の釧(くしろ)を飾るがここでは省略した。 |