輿(こし)に乗る
郊外の細い道や難路、市街部でも急を要するときや、略式の外出などには、牛車(ぎっしゃ)よりは小回りの利く輿が用いられた。輿は力者(りきしゃ)によって担がれる乗り物であるが、牛車と同じように、人が乗る屋形の基部の左右に轅(ながえ)を前後に通して、ふつうは前後それぞれ三人ずつで舁く。すなわち轅の左右両端を結んだ白布を、一人の力者が肩に掛け、左右の轅の両脇からふたりの力者がそれを支える。その三人がそれぞれ輿の前後に付くのである。力者が腰のところで担ぐので、腰輿(ようよ)、または手輿(たごし)という。
屋形はふつう切妻(きりづま)で、牛車と同じように左右の轅に歩み板を渡して袖を設けた袖輿(そでごし)もある。屋形の素材によって板製の板輿(いたごし)、檜の板を編んだ網代輿(あじろこし)、筵張(むしろば)りの張輿(はりこし)などがあった。また、山道などを通行しやすいように、屋形部分を取り外して床だけで担ぐこともあったが、これを坂輿(さかごし)といった。
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