六條院は、南と北には入口がないので、東門か西門のいずれかから道に出ることになる。ここではモデルとされる源融の河原院を想定して、西へ万里小路(までのこうじ)の方へ出て道を北にとる。
牛車は後ろ向きに対屋(たいのや)まで引き入れて、直接縁から乗り込む。同僚の女房、お供の女童を含めて四人が乗れる。中門をくぐると北へ車を進める。私的な物詣でなので前駆(ぜんく)や車副(くるまぞえ)はいない。牛飼童(うしかいわらわ)は院がふだんから使うこころやすい者である。
木の車輪のきしむ音、窓から入る春風、いずれものどかな小旅行の予感を感じさせる。五条大路へ出ると、針路を東へ変える。正面には、緑も鮮やかな東山が望める。
|