風俗博物館
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六條院とは
光源氏の邸宅を訪ねる
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六條院拝見

光源氏の邸宅を訪ねる


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天皇・朱雀院を迎える(東対・東廂)
光源氏の家(うち)では、この夏のはじめにご子息の宰相中将(夕霧)の君が左大臣のお嬢様の雲居の雁の君との長い間の恋を成就されて御婚儀が相成り、つづいて明石の君様との間にもうけられた明石の姫君が東宮(とうぐう)に入内(じゅだい)され、さらに秋には源氏御自身も四十歳のお祝いを目前に、天皇から太上天皇(だじょうてんう)に准(じゅん)ずる位を授けられるなど、おめでたがつづき、まさに栄華の絶頂ともいってよいご繁栄ぶりでございます。 そんなめでたい極みの中で執り行われたこの行幸が、源氏の君の御威勢を受けて贅(ぜい)を尽くし、華やかなものになったことはいうまでもございません。 帝にお仕えする女房のひとりとして、わたくしも院や帝に付き従って六條院を訪ね、行幸(ぎょうこう)のようすや院の雅(みやび)やかな生活を紹介することにいたしましょう。

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鵜飼の様子をご覧に入れる(東対・南面)

*帝が源氏の君の六條院に行幸されるその日になりました。 上皇の朱雀院もお誘いになりましたので、たいそう大がかりな行幸になりました。 帝・院がご一緒に行幸(ぎょうこう)・御幸(ごこう)という例もありませんので、世間も驚いています。当然、接待される源氏の君の側でも、心のこもったもてなしを心がけ、心時めく余興の準備をしたり、食材を選りすぐり、見た目にもあでやかな饗宴の料理を凝らして、準備なさっているとうかがっています。

巳(み)の刻(午前十時頃)、帝と院は六條院にお着きになりました。 まず東北の夏の御殿にある馬場殿(ばばどの)で、左右の近衛(このえ)が馬寮(めりょう)の名馬を牽いて天皇にご覧に入れます。 この御殿には源氏の君が信頼されている花散里の方がお住まいと聞いています。 馬を競走させたり、名馬を鑑賞したりするのは、貴族の楽しみのひとつで、行幸に際してはしばしば行われるものですが、このたびはとくに改まったものになりました。まるで、五月の端午節会(たんごのせちえ)でおこなわれる競馬(くらべうま)を思い出させるような光景です。

未(ひつじ)の刻も移る頃(午後二時過ぎ)になって、ようやくその南につづく、今日の宴席のある六條院の春の御殿(おとど)にお移りになりました。源氏の君が、紫の上と御一緒に住んでおられるのが春の御殿で、六條院の中心的な建物になります。 御一行は、ご案内役の源氏の君に導かれて、東の対の東廂から南面に回り、広廂(ひろびさし)の前を通って正殿と結ぶ透すき渡殿(わたどの)をお渡りになります。 お通りになる縁や橋の床にはすべて赤い錦の布が敷かれ、格子や壁などに松を描いた軟障(ぜじょう)が垂らされています。 軟障は、プライベートな空間との間を仕切るカーテンといったところでしょうか。

御一行は透渡殿の反り橋の上でしばし歩みを止められ、南に広がる池の風景を御覧になりました。 紅葉の散り浮く池には御厨子所(みずしどころ)と院の鵜飼(うかい)が舟を浮かべ、鵜を使うさまをお見せしています。 帝は鵜が小さな鮒(ふな)を獲るのを興味深く御覧になりました。 移動の途中の、ちょっとした中休みの風情です。いかにも源氏の君らしい御配慮に感心いたします。 案内役の光源氏の御説明で、一同が池の右手に目を移すと、西に隣接する秋の御殿の中宮御自慢の紅葉が、隔(へだ)ての廊の壁をこの日のために崩して、こちらからも中門を通して見えるようにしてあります。 ほんとうに空も染まりそうな鮮やかな真っ赤な色ですこと。

こうして御一行は春の御殿の正殿にお着きになりました。 寝殿(しんでん)の饗宴のしつらいには、正客の帝と院の座が対等に並べられ、その一段下に主人源氏の君の座が設けられていました。 帝はそれを御覧なって、源氏の君の座を引き上げて、三つ座を同じ列に並べ直すようにおっしゃいました。 実の父上である源氏の君をたいせつに扱いたいという帝のお心の表れと拝察いたしました。 しかし、帝御自身はその天皇という立場から、親孝行がまだ十分に尽くせないのを残念に思っておられる御様子でもありました。

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