名前ともの
平安時代の貴族たちは、季節の移り変わりに敏感で、細かな変化をも衣裳の重ねや歌に取り入れるほどであったが、その物が現代の物と同じであるか、さらにはその物を実際に知ってたかというと疑わしい。例えば、藤原良経の歌、「キリギリス、鳴くや霜夜の…」は、夏の虫であるキリギリスが晩秋の虫として登場する。今現在、キリギリスと呼んでいる虫のことか怪しいものである。虫を分類する物差しが異なるのだから、当然と言えば当然のことである。実際に見たことがなくても、物語や歌に出てくる名前でイメージを作り上げていた場合も多いだろう。
現在では、学名によって分類される名前があるが、当時の人たちにとっての分類に基づく名称があるのはもっともな事である。「あさがお」がキキョウやムクゲと言った朝に咲く花全般を指していたのも同じことである。古代の物語や歌を読む時、これはこれと決めつけるのではなく、当時の人々の目や心で接し、その時代に浸ってしまうことも必要である。
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