湿度の高い夏が過ぎると、月が七夕の星と同じく、澄み切った清涼な秋の空気のもとで輪郭を明確にし、輝きを増しはじめる。秋の月は美しく、とりわけ秋の最中(もなか)の満月、つまり八月十五日の月が最高とされ、「中秋(ちゅうしゅう)の名月」の名で人々から愛された。「月の顔見るは忌むこと」(『竹取物語』)という習俗がある一方で、中国から渡来した観月の習慣は宮廷人に八月十五夜の詩宴を催させ、儀式というより遊びの要素が強い行事として発展し、詩歌管絃(しいかかんげん)の遊宴が開かれた。
『栄花物語』の第一巻「月宴」では、康保三年(九六六)八月十五夜、前栽(せんざい)合わせ(庭木や草花の優れたものを植え、その優劣を左右に分かれて競う遊び)などが行われた後の清涼殿(せいりょうでん)での観月の宴の様子が描写され、その盛大さを伝えている。
また、宇多法皇が九月十三夜の名月を「無双(むそう)」と賞賛したことにより、晩秋のその月を「十三夜月」、「後の月」と呼んで観賞する行事も加わった。
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